カテゴリ:おはなし( 5 )

2008年 01月 03日
2008年、二日目の朝
正月も私の一日は暖かなコーヒーと芳ばしいパンで始まる。
キッチンのコーフィーカップにゴールドブレンドをほんの少し入れ、
砂糖を山盛りに‥‥おや、砂糖が切れている。
幸いにもシュガーポットの傍らには封を切られた砂糖の袋があり、
無粋だと思いつつも、そこからカップに移し取る。
今日のシュガーはちょっと硬め、だがしかし、
きらびやかに舞い落ちる結晶はそれでもなお美しい。

ハイホーを口ずさみながらクイックステップでリビングに戻った私は、
手に持った華奢なカップをテーブルに置き、
暖房の上からケトルを拝借して湯を注いだ。
私のコーヒーは砂糖がメインであるため、カップの中は紅茶に近い色に染まる。
友人たちには「それはコーヒーではない」と非難されるが、
これが私の朝なのだ。誰にも侵犯できない朝だ。
銀のスプーンでそっと円を描き、混ぜる。
立ち上がった私はくるりと回れ右をして、キッチンへ足を踏み入れた。

さて今日のパンは‥‥
どれにしようかな、と伸ばした手は自然にそれを取り上げる。
その一斤 ―― 俗に言うチョコマーブルパンはどう見ても最低二人分、
下手をすると三、四人分はあるが、休日の私は朝からよく食べるので丁度いい。
痩せの大食いというあれである。
かくしてメインディッシュを手にした私は、リビングへと舞い戻った。

食卓の前に座した私は、息を整え、パンをその手にかける。
コーヒーは一口食べてから、そう決まっているのだ。
そうして貪欲に、されどエレガントにパンを裂き、一切れを口に運んだ。

―― 美味い。そう、これが私の朝だ。

チョコレイトの余韻に浸りながら、紅茶のような色のコーヒーを手に取る。
それが適温であることは問うまでもない。グイっと一口。
そう、この甘ゲホッゴホッガハッ!

なんじゃああぁぁぁぁこりゃああぁぁ!!

節子、それ砂糖やない!塩やないか!!

うおおお正月からなんじゃあこのマンガ展開はぁぁ!
砂糖と塩ってホントに間違えるのかあああゲホゴホブフォッ!
くそっ、どーりでカタいと思ったぜ‥‥俺の上白糖を返せ!
特盛りだぞ!特盛りの塩!やってみようなんでも実験かお前は!
くわー!なぜ正月から海水(紅茶のような色の)を飲まなけりゃならんのじゃ!
ううっ、ノドが焼ける‥‥これが有名なナトリウムポンプか‥‥(違います)
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by wonderful-si1ver | 2008-01-03 03:19 | おはなし
2005年 07月 17日
愛と希望の物語 最終話
「ゼェ‥ゼェ‥‥」
聞こえるのはおばあさんの切れた息と、雑木林のざわめきだけです。
夜中 ―― おばあさんは人里離れた山中を駆けていました。
1日か2日経っているはずでしたが、時間の感覚がありません。
直径175cmの銀塊を背負っていることもありましたが、
そんなことよりも数え切れない敵に襲われることが負担でした。
狂ったジジイをはじめとする銀塊強奪部隊は脅威そのものです。
さすがのおばあさんも65口径のマシンガンで狙い撃ちされたときは死ぬかと思いました。
マサカリを振り回したおじいさんに都合よく流れ弾が当たらなければオワリでした。
思い出すだけでも身震いがします。
シャワーのお湯と水を間違えたときくらい鳥肌がたっていました。
と、
「ガサッ!!」
やけにデカい音が聞こえて、おばあさんは即座に木陰に隠れました。
後々よく考えてみれば暗殺者やプロの類がそんな馬鹿デカい音のなる方法で活動するはずはないのですがいかんせんこの時のおばあさんは気が動転していたためにすぐさまガーターベルトからハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃。)を抜いて構えていたのでした。
ゴクリ‥‥緊張の高まるなか、聞こえてきたのは
「おばあさ~ん、ボクですよ~!」
というなんとも間の抜けた声でした。
おばあさんはすぐにああこの声はうちの3軒となりの向かいの裏の家から徒歩12分のところに住んでいるキムタク似のイケメンである好青年じゃんと思い当たりました。
「おばあさん、ケガはありませんか!?」
と聞かれたおばあさんは一気に緊張の糸がほぐれました。

* * * * * * * * * * * *

山の中、ポツンと空いた洞窟から声が漏れ聞こえてきます。
「いやー、無事でホントよかったですよ~。
 ささっ、これでもどうぞ」
男が差し出したのは3個の無骨なオニギリでした。
おばあさんは[こんなおいしいオニギリは初めてだわ‥‥]
と思いつつ、一心不乱に食べ尽くしました。
おばあさんの目から一粒のナミダがこぼれ落ちました。
男は[ちょっ‥‥俺の分も残してよ(つД`)]
と思いつつ、じっとおばあさんを凝視していました。
男の口から一粒のヨダレがこぼれ落ちました。

「さァて、あたしゃまた逃げるかねェ」
スカートのフリルに付いた砂粒をパンパンとほろっていると、
「おおっと、そうはいかないね!」
男が立ちふさがります。
おばあさんは「おおっと、そ」のあたりで男の欲望に気付いていたので、
後ろ手に掴んだ銀塊を振り回して男を吹っ飛ばしました。
ホームランでした。
おばあさんは再び駆け出します。しかし‥‥
「ハッハー!そぉこまでだよ、ばあさんや」
そこにいたのはおじいさんでした。
さらに、別方向には爺軍が構えています。
さらにさらに、吹っ飛ばされた男も戻ってきて道をふさぎます。
これが四面楚歌というやつです。今回は三面ですが。
もはやおばあさんのとるべき道は一つでした。

「どおおぉぉぉぉぉりゃああああぁぁぁぁぁァァァ!!!」
銀塊をブン回し、ガトリングを乱射し、ナタを投げ、
ジジイを張り倒し、兵士に一本背負いを決め、
スピニングバードキックをかましても敵は一向に減りません。
無敵ばあさんにも、さすがに限界がおとずれていました。

「もう‥‥もう疲れた‥‥」
その場にへたり込んであたりを見回すと、
いちばん近くにあったのは例の銀塊でした。
「そう‥‥そうよ‥‥こんなものがあるから‥‥」

おばあさんが出した結論は、銀塊の破壊、でした。
三話の強欲のせいでこうなったことなど微塵も憶えてません。

おばあさんが、最後の力を込めて右手を振りかざします。
平和を取り戻すために。

「やめっ‥ヤメロォォォォ!!」
おじいさんの叫びなど、今や届くはずもありませんでした。

東の空から太陽が顔を出しました。
その朝、7月17日。

振り下ろされた空手チョップが、銀塊にクリティカルヒットしました。
するとどうでしょう!銀塊は真っ二つに割れ、
中から赤ん坊が飛び出してきたではありませんか!
「おやおじいさん、子どもが出てきましたよ」
「よし、では"銀"と名づけよう」
しかし、のんきな一同を尻目に赤ん坊は静かに言いました。

「我は全ての救世主(メシア)にして
 全ての破壊者(デストロイヤー)なり。
 汝の願いを叶えよう。
 生きとし生けるものに、等しき安らぎを。」

赤ん坊の体がカッと光り、辺りは輝きに包まれました。
星の数ほどもいた爺軍も、老夫婦も、間の抜けた男も。
この世の生命全てが蒸発し、時が止まりました。
変化を失った世界に残ったのは、ただ二つ、
神に等しき存在"銀"と、永遠の"平和"でしたとさ。

めでたしめでたし



いやー終わった終わった。
というわけでワタクシこと銀、本日が誕生日でございます。
いやーめでたいめでたい。

で、俺、何歳だっけ?
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by wonderful-si1ver | 2005-07-17 01:55 | おはなし
2005年 07月 15日
愛と希望の物語 第三話
一陣の風が吹きました。
木々は揺れ、川は波立ち、女の子はスカートをおさえます。
遠くの教会から「モルダウ」を合唱する声が、低く、しかし強く響いてきます。
強い風が垂れこめた暗雲を吹き飛ばし、
ひとすじの光が川に射しました。

直射にさらされ、キラリと光るあれは‥‥

「‥‥ナンだありゃァ、金属だべか?」
「ねずみ色‥‥いや、ニビ色?」
「あれは‥‥銀‥‥!デッカイ銀のカタマリだ!!」
人々が騒いでいるあいだに、おばあさんはもはや泳ぎだしていました。
3ノットはあろうかというスピードでバタフライをするその姿は、
群集を畏怖させるには充分すぎるものでした。
おばあさんが目指すはただ一点、
川上から流れてくる銀魂、じゃなかった銀塊だけです。
「もぉぉぉらったァァァァァ!!うひゃひゃひゃー!!!」
おばあさんは小さいつづらより大きいつづらを選ぶタイプでした。
つまり強欲でした。
おばあさんは、直径175cmほどの銀塊をガッシリつかむと、
そのまま猛スピードで家に向かって走りました。
観衆は口をあんぐり開けたまま、あっけにとられて身じろぐことさえできませんでした。
7月の日差しがさんさんとふりそそいでいました。

* * * * * * * * * * * *

「バターン!」
とベタな音を立てて老夫婦の家のドアが開きます。
あらためて銀塊をまじまじと見ると、
暖炉の火を乱反射させてとってもキレイでした。
おばあさんは暖炉に火があるのはボケたジジイの仕業だと思いました。
四畳半のロフト付き1LDKに1.75mの銀塊があったので
いささか邪魔かな、と思いつつ、金持ちになったからいいか、と思いました。
そのときです!
「バターン!」
とベタな音を立てて老夫婦の家のドアが開きます。
「あらお帰りなさいおじいさん」
おばあさんは満面の笑みをうかべておじいさんに駆け寄りました。
一般的な視点で見ると、この世のものとは思えない笑顔でした。

しかし‥‥
おじいさんの目の色が変わっていきます。
じっと銀塊を見つめるその目には、恐ろしいチカラが宿っているかのようでした。
「コイツ‥‥ケヒヒ‥コイツを朝廷に差し出して天皇家にとりいれば‥‥
 わしも‥‥わしだって"世界"を手に入れられる‥‥ヒョヒョ‥ヒョ?」
おばあさんは「ケヒ」のあたりですでに銀塊を背負って走り出していました。
おじいさんの反応速度にはかなりの問題が感じられました。
「ケケーッ!逃がすかっ、捕まえろ!!」
おじいさんの鶴の一声で幾億もの軍勢が歩き始めました。
そう、おばあさんの逃走生活が始まったのです。

時は、1805年7月15日。
つづく

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by wonderful-si1ver | 2005-07-15 15:40 | おはなし
2005年 07月 13日
愛と希望の物語 第二話
脈絡なく紡がれゆくストーリー ── それこそが"愛と希望"なのさ
                    グレッグ=D=ヒューストン (誰?)



おばあさんが川の中ほどで立ち泳ぎしていると、
[ ドゥオンヴラコ‥‥ドゥオンヴラコ‥‥ ]
と奇怪な音が聞こえてくるではありませんか。
群集は震え上がり、
「ワーオ、帝国の飛行船か!?勝ち目はないぜ!」
「気味が悪い‥‥ビッグサンダーマウンテンに乗ったような気分だわ‥‥」
「あッ!玉ネギ買い忘れた!!」
と口々に叫びました。阿鼻叫喚というやつです。
パニックの中、おばあさんは一人冷静でした。
そうして、記憶の中から一つの答えをたぐりよせました。
「この音‥‥NIPPONのOtogi-Banashiで聞いたことがあるわ!」
突然の雄叫びに、一億数十万の視線が集まります。
「来る‥‥来るわ!アレが流れてくるのよ‥‥!!」
そこに、もう騒ぐ者は一人もいませんでした。
川辺にいた皆が固唾を飲んで音のする方を見つめています。
その空間は沈黙に包まれ、微動だにしません。
縦ロールの髪が印象的なジェニー(9)はトイレに行きたいのをガマンしました。

[ どんぶらこ‥‥どんぶらこ‥‥ ]
世にも奇妙な音の主は、もうそこまで近づいていました。
つづく

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by wonderful-si1ver | 2005-07-13 17:04 | おはなし
2005年 07月 11日
愛と希望の物語 第一話
むかしむかし、あるところに‥‥
‥‥‥‥

時は西暦1805年、
ドイツの片田舎のあるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おばあさんは「女性蔑視だわ!」とヒステリックに叫びました。
あるところにおばあさんとおじいさんがいました。
おじいさんは村へ首狩りに、
おばあさんは美しき青きドナウ川に洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると
「あ゙ッ!!」コンタクトレンズを落としてしまいました。
ハードコンタクトはみるみる沈んでいき、蒼く澄んだ水だけが残りました。
鳥のさえずり、ヤギの声 ──
おばあさんはかつてない爽やかな気分に酔いしれました。
が、左目が霞んで見えないのですぐ正気にもどりました。
おばあさんが呆けてる間に、コンタクトはかなり流されていました。
そんなことなど眼中にないおばあさんは、
「どっせーい!」とうなり声を上げながら川へ飛び込みました。
近くにいた農家のトメさん(74)は、のちのインタビューで
「あれは怒りに満ちた鬼神そのものだった‥‥」と恐怖を語りました。
おばあさんは、バサロ泳法で泳いでいたので
すぐにコンタクトに追いつきました。
コンタクトにコンタクトしました。
おばあさんをはじめとしたまわりの人々は歓喜の声をあげました。
あの不良のフレデリック(23)まで泣いています。本当によかった。

それが本当の恐怖の始まりであることには、誰一人として気付いていませんでした。
つづく

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by wonderful-si1ver | 2005-07-11 18:11 | おはなし