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2005年 07月 15日
愛と希望の物語 第三話
一陣の風が吹きました。
木々は揺れ、川は波立ち、女の子はスカートをおさえます。
遠くの教会から「モルダウ」を合唱する声が、低く、しかし強く響いてきます。
強い風が垂れこめた暗雲を吹き飛ばし、
ひとすじの光が川に射しました。

直射にさらされ、キラリと光るあれは‥‥

「‥‥ナンだありゃァ、金属だべか?」
「ねずみ色‥‥いや、ニビ色?」
「あれは‥‥銀‥‥!デッカイ銀のカタマリだ!!」
人々が騒いでいるあいだに、おばあさんはもはや泳ぎだしていました。
3ノットはあろうかというスピードでバタフライをするその姿は、
群集を畏怖させるには充分すぎるものでした。
おばあさんが目指すはただ一点、
川上から流れてくる銀魂、じゃなかった銀塊だけです。
「もぉぉぉらったァァァァァ!!うひゃひゃひゃー!!!」
おばあさんは小さいつづらより大きいつづらを選ぶタイプでした。
つまり強欲でした。
おばあさんは、直径175cmほどの銀塊をガッシリつかむと、
そのまま猛スピードで家に向かって走りました。
観衆は口をあんぐり開けたまま、あっけにとられて身じろぐことさえできませんでした。
7月の日差しがさんさんとふりそそいでいました。

* * * * * * * * * * * *

「バターン!」
とベタな音を立てて老夫婦の家のドアが開きます。
あらためて銀塊をまじまじと見ると、
暖炉の火を乱反射させてとってもキレイでした。
おばあさんは暖炉に火があるのはボケたジジイの仕業だと思いました。
四畳半のロフト付き1LDKに1.75mの銀塊があったので
いささか邪魔かな、と思いつつ、金持ちになったからいいか、と思いました。
そのときです!
「バターン!」
とベタな音を立てて老夫婦の家のドアが開きます。
「あらお帰りなさいおじいさん」
おばあさんは満面の笑みをうかべておじいさんに駆け寄りました。
一般的な視点で見ると、この世のものとは思えない笑顔でした。

しかし‥‥
おじいさんの目の色が変わっていきます。
じっと銀塊を見つめるその目には、恐ろしいチカラが宿っているかのようでした。
「コイツ‥‥ケヒヒ‥コイツを朝廷に差し出して天皇家にとりいれば‥‥
 わしも‥‥わしだって"世界"を手に入れられる‥‥ヒョヒョ‥ヒョ?」
おばあさんは「ケヒ」のあたりですでに銀塊を背負って走り出していました。
おじいさんの反応速度にはかなりの問題が感じられました。
「ケケーッ!逃がすかっ、捕まえろ!!」
おじいさんの鶴の一声で幾億もの軍勢が歩き始めました。
そう、おばあさんの逃走生活が始まったのです。

時は、1805年7月15日。
つづく


by wonderful-si1ver | 2005-07-15 15:40 | おはなし


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