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2005年 07月 17日
愛と希望の物語 最終話
「ゼェ‥ゼェ‥‥」
聞こえるのはおばあさんの切れた息と、雑木林のざわめきだけです。
夜中 ―― おばあさんは人里離れた山中を駆けていました。
1日か2日経っているはずでしたが、時間の感覚がありません。
直径175cmの銀塊を背負っていることもありましたが、
そんなことよりも数え切れない敵に襲われることが負担でした。
狂ったジジイをはじめとする銀塊強奪部隊は脅威そのものです。
さすがのおばあさんも65口径のマシンガンで狙い撃ちされたときは死ぬかと思いました。
マサカリを振り回したおじいさんに都合よく流れ弾が当たらなければオワリでした。
思い出すだけでも身震いがします。
シャワーのお湯と水を間違えたときくらい鳥肌がたっていました。
と、
「ガサッ!!」
やけにデカい音が聞こえて、おばあさんは即座に木陰に隠れました。
後々よく考えてみれば暗殺者やプロの類がそんな馬鹿デカい音のなる方法で活動するはずはないのですがいかんせんこの時のおばあさんは気が動転していたためにすぐさまガーターベルトからハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃。)を抜いて構えていたのでした。
ゴクリ‥‥緊張の高まるなか、聞こえてきたのは
「おばあさ~ん、ボクですよ~!」
というなんとも間の抜けた声でした。
おばあさんはすぐにああこの声はうちの3軒となりの向かいの裏の家から徒歩12分のところに住んでいるキムタク似のイケメンである好青年じゃんと思い当たりました。
「おばあさん、ケガはありませんか!?」
と聞かれたおばあさんは一気に緊張の糸がほぐれました。

* * * * * * * * * * * *

山の中、ポツンと空いた洞窟から声が漏れ聞こえてきます。
「いやー、無事でホントよかったですよ~。
 ささっ、これでもどうぞ」
男が差し出したのは3個の無骨なオニギリでした。
おばあさんは[こんなおいしいオニギリは初めてだわ‥‥]
と思いつつ、一心不乱に食べ尽くしました。
おばあさんの目から一粒のナミダがこぼれ落ちました。
男は[ちょっ‥‥俺の分も残してよ(つД`)]
と思いつつ、じっとおばあさんを凝視していました。
男の口から一粒のヨダレがこぼれ落ちました。

「さァて、あたしゃまた逃げるかねェ」
スカートのフリルに付いた砂粒をパンパンとほろっていると、
「おおっと、そうはいかないね!」
男が立ちふさがります。
おばあさんは「おおっと、そ」のあたりで男の欲望に気付いていたので、
後ろ手に掴んだ銀塊を振り回して男を吹っ飛ばしました。
ホームランでした。
おばあさんは再び駆け出します。しかし‥‥
「ハッハー!そぉこまでだよ、ばあさんや」
そこにいたのはおじいさんでした。
さらに、別方向には爺軍が構えています。
さらにさらに、吹っ飛ばされた男も戻ってきて道をふさぎます。
これが四面楚歌というやつです。今回は三面ですが。
もはやおばあさんのとるべき道は一つでした。

「どおおぉぉぉぉぉりゃああああぁぁぁぁぁァァァ!!!」
銀塊をブン回し、ガトリングを乱射し、ナタを投げ、
ジジイを張り倒し、兵士に一本背負いを決め、
スピニングバードキックをかましても敵は一向に減りません。
無敵ばあさんにも、さすがに限界がおとずれていました。

「もう‥‥もう疲れた‥‥」
その場にへたり込んであたりを見回すと、
いちばん近くにあったのは例の銀塊でした。
「そう‥‥そうよ‥‥こんなものがあるから‥‥」

おばあさんが出した結論は、銀塊の破壊、でした。
三話の強欲のせいでこうなったことなど微塵も憶えてません。

おばあさんが、最後の力を込めて右手を振りかざします。
平和を取り戻すために。

「やめっ‥ヤメロォォォォ!!」
おじいさんの叫びなど、今や届くはずもありませんでした。

東の空から太陽が顔を出しました。
その朝、7月17日。

振り下ろされた空手チョップが、銀塊にクリティカルヒットしました。
するとどうでしょう!銀塊は真っ二つに割れ、
中から赤ん坊が飛び出してきたではありませんか!
「おやおじいさん、子どもが出てきましたよ」
「よし、では"銀"と名づけよう」
しかし、のんきな一同を尻目に赤ん坊は静かに言いました。

「我は全ての救世主(メシア)にして
 全ての破壊者(デストロイヤー)なり。
 汝の願いを叶えよう。
 生きとし生けるものに、等しき安らぎを。」

赤ん坊の体がカッと光り、辺りは輝きに包まれました。
星の数ほどもいた爺軍も、老夫婦も、間の抜けた男も。
この世の生命全てが蒸発し、時が止まりました。
変化を失った世界に残ったのは、ただ二つ、
神に等しき存在"銀"と、永遠の"平和"でしたとさ。

めでたしめでたし



いやー終わった終わった。
というわけでワタクシこと銀、本日が誕生日でございます。
いやーめでたいめでたい。

で、俺、何歳だっけ?

by wonderful-si1ver | 2005-07-17 01:55 | おはなし


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